堕落した薬学生のお部屋

薬学部でとりあえず生き残ることに精一杯な女子大学生。留年したくない。

【読書感想】差別に向き合うエッセイ「ぼくはイエローで、ホワイトで、ちょっとブルー」

「ぼくはイエローで、ホワイトで、ちょっとブルー」

 

ブレイディみかこさんのエッセイ。息子さんがロンドンの「元底辺中学校」に通う学校生活の中で遭遇する差別や偏見に対しての親子の対話がメインで描かれている。

私は今まで日本の田舎でぬくぬくと過ごしてきた。外国人といえば英語のALTの先生とか、学年に一人くらいいる留学生くらいで、差別されることもすることも多分なかったように思う。教科書やニュースで扱われる人種差別とは無縁の世界で、もしかしたら私が気づいていないだけであったのかもしれないけれど私にとっては身近ではなかった。高校生の時にオーストラリアに数日ホームステイに行ったけれど、普通に歓迎されて美味しいものを食べさせてもらい、きれいな場所に連れて行ってもらった。だから、これが普通だと認識してしまっていたけれど、全然普通じゃなかったんだとこの本を読んで気が付いた。

舞台はロンドン、著者は「荒れている地域」と呼ばれる元公営住宅地に住んでいる。息子は近くの「元底辺中学」に入学し、そのエネルギッシュな雰囲気の学校生活を楽しむ一方で、人種や家庭環境の違いから生まれる差別と偏見が絡み合う複雑な人間関係の壁に何度もぶつかることになる。作者も母親として相談を受けながら、一緒に考え、悩みながら息子とともにその問題に向き合っていく。

印象に残ったシーンは、水泳大会の話。市主催の中学校別水泳競技大会で、プールサイドの向こう側とこちら側で私立校と公立校の生徒が分けられていて、レースも完全に分かれていた。レースが始まると、私立校の生徒は泳ぎのフォーム、ターンの仕方などが洗練されており、公立校の生徒より実力が上であることが明白だった。つまり、学業だけでなく、スポーツの出来も親の経済状況に依存する。貧乏ならスポーツ選手になっていっぱい稼いでやるという時代ではなく、親に資本がなければ何かに秀でることは難しいのだという現実をまざまざと見せられてどんよりした気持ちになる作者。しかし、男子フリースタイル50メートルのレースで、公立校サイドからヤシの木柄の海パンの少年がスタート台に現れると会場の空気が一変する。弾丸のように圧倒的な速さで泳ぐ彼は、小学生の時にスカウトされて無料でコーチをつけてもらい、いろいろな大会に出場経験があるらしい。メダル授与式ではもちろん私立校の生徒が呼ばれ、淡々と式が進む。男子フリースタイル50メートルで柄パン選手が底辺中学の陣地から金メダルを受け取りに出ると、プールサイドのこちら側に大げさに力こぶを作って見せ、何度も大きく投げキッスの仕草をした。ギャラリーは大騒ぎ、割れんばかりの拍手喝采。自分たちの階級に対して、めったに勝てずプールサイドの片側にぎゅうぎゅう詰めにされている事実を笑い飛ばしてやろうというような彼なりのプライドが見えた。

私立か公立かでこんなにあからさまに区別するんだという驚きと、勉強もスポーツも多分芸術とかほかのどの分野に関してもまずは親の経済力が必要なのかという残念さとか、日本ではおそらく経験することのない気持ちになった。そして、文章としてもこの緩急のつけ方がほんとすごいと思う。いったん読んでる人が追体験できるように暗い場面を書いて現実をリアルに描写したあとに、希望というか、そんな中での光みたいなのを描き出す。このエッセイは全体的にそのような雰囲気があって、根底に差別や貧困のようなどんよりしたテーマが横たわっているのだけれど、それに対しての少し希望が見える展開があり、ないときは息子さんや作者の新しい視点や解釈が入って少し明るい未来が見えるのがいい。

こういう文章を書けるようになりたいなと思ったし、続編があるらしいのでそちらもぜひ読みたい。

 

 

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